黄金薔薇十字団 規約


I 団員は総数63名を超えてはならない。

II カトリック教徒の参入は許可される。団員は他団員の信仰に関する質問を発してはならない。

III 薔薇十字団インペレーターの十年任期を廃止し、終身制とする。

IV インペレーターは全団員の住所録を所持し、必要に応じて相互扶助を可能ならしめるよう手配する。同様に全団員の名簿と出生地一覧も所持する。最古参の兄弟が常にインペレーターを勤める。定期会合のためにニュールンベルグとアルトナに二軒の家屋を建造する。

V 二名ないし三名の兄弟が集会を開くときは、インペレーターの許可なくして新人を推薦する権限を授与されない。許可なき推薦はすべて無効とする。

VI 若年の徒弟および兄弟は師匠に対して絶対服従すること。

VII 兄弟たちは日曜日以外は会食してはならない。共同作業に従事している場合は共同生活および会食を許可される。

VIII 父が息子を、あるいは兄弟を推薦することは、本人の資質を十分に証明しないかぎり、これを禁じる。術が世襲制になることを防ぐためにも他人を推薦するほうがよい。

IX たとえ二名ないし三名の兄弟が集ったとしても、部外者に団への請願を立てさせることは許されない。団へ参入を希望する者はまえもって修行を積み、あらゆる作業に経験を有し、かつ術を会得することを真摯に希望する者でなければならない。

X 兄弟の一人が後継者指名を望む場合、指名された者はわれわれが自費で建立した教会において信仰告白をなし、その後二年間徒弟としてとどまらねばならない。この見習期間中、徒弟は会衆に紹介される。またインペレーターは徒弟の名前、国籍、職業、出自を通知される。インペレーターはしかるべき時期に印璽を持たせた兄弟数名を派遣して、徒弟を兄弟に昇進させる。

XI 兄弟が会合するとき、以下の挨拶を交わすこととする。最初の兄弟が Ave Frater! と言う。これに次の兄弟が Rosae et Aureoe と返答する。最初の兄弟が Crucis と結ぶ。かくしてお互いの身分を確認したのち、互いに Benedictus Dominus Deus noster qui dedit nobis signum と言う。そして紋章を明らかにする。名前はごまかせても紋章はごまかせないからである。

XII 兄弟はわれらの大いなる家に受け入れられ、石を授けられたのち、作業に従事するよう求められる(兄弟は常時六十年の寿命分の霊薬を受領する)。作業開始前に神に献身を誓い、秘密の術を用いて神に逆らわぬこと、帝国に危害を及ぼさぬこと、大望野心を抱いて暴君とならぬことを肝に銘じる。常に無知を装い、秘密の術など山師の言い草にすぎないと常時公言せよ。

XIII 会衆の許可を得ずして秘密文書の要約を作ること、および印刷することを禁ずる。また文書には兄弟の名前や紋章を記してはならない。また、術を攻撃する文章を印刷してはならない。

XIV 兄弟はよく密閉された室内においてのみ秘術を語ることを許される。

XV 兄弟間での石の授受は自由かつ無料とする。神の恩寵は代価をもって購うことができないからである。

XVI いかなる状況にあっても団員以外の人間のまえでひざまづいてはならない。

XVII 兄弟はあまりしゃべってはならない。また結婚してはならない。ただし本人が余程に希望するならば妻をめとることも違法ではないが、哲学的精神をもって妻と同居しなければならない。妻が若い兄弟相手に過剰に修行することを許してはならない。年長の団員に対してであれば妻の修行も許される。また兄弟は自分の子供の名誉を自分のものとして尊ばねばならない。

XVIII 兄弟たちは人の間に敵意や不和を生み出してはならない。魂に関する事柄を語ってはならない。たとえ兄弟たちにとっては至極当然の話ではあっても、人や獣や植物の魂の話は世間一般にとっては奇跡の如くとらえられる。このような話をすれば兄弟たちの正体が容易に露見するのであって、1620年のローマの事件がその一例である。ただし兄弟たちしかいない場合、こういった秘密の事物を語ることは許される。

XIX 陣痛に苦しむ女性に石を与えてはならない。早産をまねくからである。

XX 狩猟場にて石を用いてはならない。

XXI 石を所有している人間は他者に物事を依頼してはならない。

XXII 通常の大きさ以上の真珠や宝石を製造してはならない。

XXIII 公の場所で神聖秘密の事項を語ること、操作すること、融解凝固することは禁じられる(違反者は当団の大会館にて処罰される)。

XXIV 同じ街に兄弟数名がたまたま居合わせるという場合もあるため、兄弟は聖霊降臨節日に日の出の方角にある街の端に赴き、かれが薔薇十字団員であれば緑の十字架を、黄金十字団員であれば赤い十字架をかける。ただしこれは助言であって命令ではない。その後、周辺の兄弟たちは日没までだれか他の兄弟が十字架をかけていないか確かめに行くべし。兄弟たちが出会ったなら、通常の方法で挨拶を交わし、知己になったうえでその旨をインペレーターに報告せよ。

XXV インペレーターは10年毎に住居と氏名を変更せよ。必要であればさらに短い間隔で変更し、その旨を最大秘密のもと兄弟たちに通知せよ。

XXVI 各兄弟たちは入団後、氏名を変え、また石を用いて年齢も変えよ。また国から国へ旅をするときは、正体を見破られぬよう氏名を変えよ。

XXVII 兄弟たちは祖国を十年以上離れてはならない。また他国へ旅立つ際は目的地および採用する名前を通知せよ。

XXVIII 兄弟たちは落ち着き先の街で住民と知り合いになって一年以上経過するまで作業をしてはならない。無学な学者と知り合いになってはならない。

XXIX 兄弟たちは自分の財宝金銀を人に見せてはならない。とりわけ宗教団体の団員には気をつけよ。1641年にはこの件で二名の団員の命が失われている。この種の団体の人間はなにがあろうとも兄弟として受け入れてはならない。

XXX 作業中、兄弟たちは召使として若輩者よりは年長者を採用せよ。

XXXI 兄弟たちは自らの刷新を望むとき、まず他の王国へ移動しなければならない。刷新を達成したのちは以前の住居に戻ってはならない。

XXXII 兄弟たちが会食する際、招待主は既述の条件にしたがって可能なかぎり招待客を指導しなければならない。

XXXIII 兄弟たちは可能なかぎり団の会館に集い、インペレーターの名前や住所に関する情報交換を行わなければならない。

XXXIV 兄弟たちは旅行中は女性と関係を持ってはならない。友人として数名、通例団外より選択すべし。

XXXV 兄弟たちは他所に移動する際、目的地を他者に口外してはならない。持ち運べないものを売却してはならない。六週間以上留守にする際は家主に指示して所持品を貧しい者たちに与えること。

XXXVI 旅行中の兄弟は第一投企薬を油状にて持ち歩いてはならない。金属の栓を備えた金属製の箱に粉末状態にて保管すること。

XXXVII 術の処方箋を所持携帯してはならない。やむを得ぬ場合は暗号にて記述すべし。

XXXVIII 旅行中の兄弟および世間的に活躍している兄弟は、食事に招待されても招待主が先に口をつけるまで食物を食べてはならない。これが不可能な場合は、朝方、家を出る前に第六投企薬を一グレイン服用すべし。さればなにを食べても恐れることはない。ただし飲食はほどほどにせよ。

XXXIX 兄弟は第六投企薬を他人に与えてはならない。病気の兄弟にのみ与えよ。

XL 兄弟は作業中に立場に関する質問を受けた場合、自分は新米でなにもわからないと答えよ。

XLI 作業を欲する兄弟が他の兄弟の援助を得られず、やむなく徒弟を雇う場合、実際の術を徒弟に目撃されぬよう配慮せよ。

XLII 既婚者は兄弟参入の対象とはならない。兄弟が後継者を指名したい場合は、友人の少ない人間を選ぶべし。友人多き者を指名する場合、口外無用の誓いを立てさせるべし。違約の際はインペレーターによる処罰に服することに同意させよ。

XLIII 兄弟は後継者として徒弟を採用してよい。徒弟は少なくとも十歳でなければならない。徒弟には誓願を立てさせよ。インペレーターの許可がおりて正式に団員と認められたならば、その者は後継者として受け入れられる。

XLIV 王侯に正体を見破られた兄弟は、王侯に秘密を明かすよりもその場にて死すべし。他の兄弟たちおよびインペレーターは生命を賭してかの兄弟の救助にあたるべし。不幸にして王侯が頑迷であり、兄弟が秘密を持して死すならば、その兄弟は殉教者として称えられる。兄弟が占めていた地位は親族に譲られ、かれを称える秘密の記念碑が建立される。

XLV 新たなる兄弟はわれらが自費で建立した教会のひとつにおいて、六名の団員立会いによってのみ団参入を許される。新団員は3ヶ月の教育を受け、あらゆる必要事項を身につけなければならない。その後、新団員は平和の合図、棕櫚の枝、三度の接吻を授かり、以下の言葉を与えられる−−「親愛なる兄弟よ、われわれは汝に沈黙を命令する」。その後かれは特別の衣装を着用してインペレーターの前にひざまづく。両脇には一方にかれの指導主、もう一方に兄弟が立つ。その後かれは宣言する−−「われ○○は永遠なる生ける神の名において誓言す。われに伝えられる秘密を決してもらさぬことを(ここで二本指をあげる)、一生のあいだ自然なる封印のもとに隠蔽せんことを。またわれが知るところとなるあらゆる関連の秘密をも守らん。われらの兄弟団の所在も、インペレーターの住所も氏名も決して明らかにしないと誓言す。また石を他人に見せることもしないと誓言す。以上、すべてをわれはわが生命を賭して永遠なる沈黙のうちに保たん。神と御言葉の御力を賜らんことを。
 その後指導主が新人の頭髪を七房切り取って七枚の紙で折りたたみ、それぞれに新人の氏名を記して保管用にインペレーターに提出する。翌日兄弟たちが新人の住居を訪れ、挨拶も会話もせずに食事をする。しかし立ち去り際に兄弟たちが次のように語る−− "Frater Aureae (vel Roseae) Crusis Deus sit tecum cum perpetuo silentio Deo promisso et nostrae sanctoe congregationi" これが三日間続く。

XLVI この三日間が経過したのち、兄弟たちはそれぞれの思惑にて貧しき者に贈り物をする。

XLVII われらの住居に2ヶ月以上滞在することは許されない。

XLVIII 兄弟たちは新たな兄弟のもとに一定期間以上通って親密になったなら、できるかぎりの指導を行わなければならない。

XLIX 兄弟たちはわれらの家にあるときは三回以上投企を行う必要はない。指導主に属するある種の作業があるからである。

L 兄弟たちは互いに会話する際は参入時に与えられた名前で呼び合うべし。

LI 余所者がいる場合は通常の名前で呼び合うべし。

LII 新たな兄弟は最近旅立った兄弟の名前を必ず襲名すべし。そしてあらゆる兄弟は団参入時に主イエス・キリストの御名において誓約を立てた以上、これらの規約に従うべし。


解説 : 1710年に刊行された『黄金薔薇十字団極秘、賢者の石処方』にある同団規約52条である。著者とされるジクモンド・リヒテルはベーメとパラケルススの研究者であり、Sincerus Renatus の筆名で薔薇十字本を記している。「黄金薔薇十字」団とは一言でいえば「当時のゴールデン・ドーンであり、多数の要素を集めて作られた、最初の明確な薔薇十字組織」(マッキントッシュ『薔薇十字』第7章)である。

 この規約はかなりの部分が事実というよりはかくあるべしというリヒテルの願望であろう。随所にばらまかれた「石」、「投企粉末」等が読者の興味をそそる趣向である。

 それでもこの規約は微妙な形で後発の組織に影響を与えたといえる。たとえばウェストコットが捏造した(とされる)シュプレンゲル書簡においては、シュプレンゲルの連絡先がニュールンベルグとなっている。これは規約第四項にある団会館の所在を利用したものと思われる。なお規約そのものはウェイトの『薔薇十字真史』(1887)に収録されていた英訳部分を訳出したものである。ウェイトの『真史』は英国薔薇十字協会の神経を逆なでにしたといわれているが、この規約部分も一役買っているかもしれない。



戻る