アルカナI

文字 Athoim (A) -- 数字 1

術士 : 意志

A-1は神界にあっては絶対的存在を表す。この存在は万物の無限性の保持し、また流出させる。知識界にあっては統一であり、各数字の原理にして総合である。意志にして行動の原理でもある。物理界にあっては人間すなわち万物の霊長、自らの能力を不断に拡張することで絶対的同心円の中央へと上昇すべく定められた者である。

 アルカナIを象徴するものは術士である。すなわち完全なる人間の典型、肉体も精神も十全に発達させた存在である。その姿はまさに意志を行動へと発動させんと直立する男性にて表される。純潔の表象たる白い衣をまとい、腰帯は尾をくわえる蛇すなわち永遠を意匠している。額には光を象徴する黄金の鉢巻が巻かれており、あらゆる被造物が循環するという連続性を表す。術士は右手に権限の象徴たる黄金のセプターを持ち、天に向けてかざしている。これは知識と叡智と力を熱望する姿勢の表れである。左手の人差し指は地面を指差す。これは完全なる人間の使命が物質世界への君臨であることを示す。これら二つの仕草の意味するもの−−人間の意志は神的意志の地上への反映とならねばならず、善を推進し、悪を阻むことを目的とするということである。

 術士の前にある立方石には、杯と剣と、中央に十字を刻むシェケル金貨が置いてある。杯は幸福あるいは不幸に寄与する情熱の混合を表す。どちらを得るかはわれわれが情熱を支配するか、その奴隷となるかにかかっている。剣は障害を克服するための刻苦と闘争、それに伴う試練を象徴する。シェケル金貨は達成された熱望、努力と意思力によって得られた力の頂点の象徴である。シェケルに刻まれた十字は永遠を表す紋章であり、かくして得られた力が将来的にさらなる天球へと上昇することを明示している。

参考


エリファス・レヴィ 「ヘルメスの書の第1頁には大きな帽子をかぶる達人が描かれている。この帽子をすっぽりかぶれば頭がまるまる隠れそうである。片手に棒をもって天を指し、あたかもなにか命令を下しているかのような様子である。もう片方の手は胸元に置かれている。彼の前には主要なる象徴ないし科学の道具がある。他の道具は奇術師の頭陀袋に隠している。胴体と両腕で文字アレフを形成する。この文字はユダヤ人がエジプト人から借用したアルファベットの第1の文字である」 -- 『高等魔術の教理と儀式』 (1855)


パピュス 「タロットの最初の札を手にとり詳細に検討してみれば、奇術師の姿があらゆる点でアレフ文字と対応するように描かれていることがわかるだろう。このカードを研究するにあたり、隠秘科学原論による象徴体系分析を用いるなら、ただちに新たなる解釈に到達するであろう。人物像の頭部には宇宙生命の聖なる印たる∞が置かれている。人物像の足元には大地があり、自然を象徴する大地の生産物に飾られている。人物像の左右には手が描かれており、一方は地を、他方は天を指している。両手の位置は二つの原理すなわち偉大なる万物の陰陽を表す。これはソロモン神殿およびフリーメイソンリーの儀式場にあるヤッキンとボアズの二柱にも照応する」 -- 『ボヘミアンのタロット』 (1889)


ウェストコット 「魔術師はテーブルのそばに立ち、左手に魔法の杖を持っている。テーブルの上には作業に適した道具、たとえば短剣や杯や万能章が置いてある。かれの顔は自信に満ち、両眼は知性できらめき光っている」 -- 『サンクタム・レグナム』 (1896)


ウェイト 「若者が魔術師の衣をまとい、聖なるアポロの如き表情にて自信に満ちた笑みを浮かべ、目を輝かせている。頭上には聖霊をあらわす神秘のサイン、生命のサインがる。それは無限の紐の如きもので、数字の8を水平にして∞とした形となっている。腰回りには自らの尾を加える蛇をあしらった帯が巻かれている。これは永遠を表す伝統的な象徴として周知であるが、ここではとりわけ霊における達成の永遠性を示す。魔術師の右手には天に向けられた棒があり、左手は地面を指差している」 -- 『タロット図解』 (1911)



解説 : クリスチャンの記述において注目すべきは、右手に棒ないしセプターを持つという一項、および尾をくわえる蛇をあしらった帯、額に鉢巻というデザインである。そもそもマルセイユにせよイタリアンにせよ、主要なタロットの魔術師はみな左手に棒あるいは杯を持っているのである。
 ライダー版の魔術師が右手棒、鉢巻、蛇帯を採用することで事実上クリスチャンの魔術師を再現しているという点も興味深い。



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