Boehme,
Jakob ヤーコプ・ベーメ (1575-1624) ☆ ドイツの神秘主義者、哲学者、靴職人。自己の神秘体験を書き記した著作で世間の耳目を集め、現在に至るまで多くの信奉者を有している。 1575年、シュレージェン地方の農家に生まれるが、生来病弱であり、ちゃんとした羊飼いになれそうにないので、13歳でゲルリッツの靴修繕職人のもとに徒弟奉公に出される。以後11年間を真面目につとめあげ、1599年には「親方」になり、肉屋の娘を妻に迎えている。なんともつつましい環境の中で、革手袋作りもレパートリーに加えた。 ベーメの神秘体験は少年時代から起きていたようであるが、それが一般に知れ渡るようになるのは彼が40歳を過ぎてからである。1612年に神秘体験の書『黎明』を執筆しているが、出版されるずっと以前から原稿状態で人づてに伝わり、たちまち評判を呼んで彼の周囲には思想家や哲学者が集まるようになっている。やがて御定まりの教会の介入が始まり、ベーメは異端の嫌疑をかけられて、以後著作の発表はおろか執筆すら禁じられてしまった。 ベーメはその後おとなしく靴を修繕していたが、1618年あたりから神学ものを書き始め、1622年には小著も発表している。当然、教会から睨まれるが、なんとか逃れて活動を続け、ドレスデンに短期間滞在中すでにかなりの数に達した信奉者に囲まれて祝福されるなど、やっと陽の目を見たと思いきや熱病に倒れてしまい、虫の息でゲルリッツに運ばれている。 1624年、 死去。 ベーメの神秘体験でもっとも有名なものは25歳の時に錫の皿をぼんやりと眺めていて唐突に眼前にヴィジョンが広がったというものであろう。彼はこの種の経験を通して、人間と神の一体を感じとったといわれている。ベーメの関心は続いて神的顕現と世界の構造の関係論に移り、最後には高等な神学的問題を扱うようになっている。 ベーメの評価は没後ますます高まる一方であり、彼の著作は次々に様々な言語に翻訳されている。彼の思想は theosophy という言葉で表されるようになり(この場合、「見神論」と訳す)、19世紀末にブラヴァッキーの神智学協会が出現するまでは、theosophy と言えばベーメの教義を示すものであった。 現在の魔術界でも、ベーメの人気は衰えておらず、自分の体験したヴィジョンを判断する際のよりどころにベーメを参照する人間が多い。 |
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主要著作 | Aurora, oder die Morgenr te un Aufgang, 1612.:『黎明』征矢野晃雄訳、牧神社、1976年。 XL Questions Concerning the Soule, M.S. for H.Blunden, London, 1647. Signature Rerum: Or the Signature of all Things, John Macock for Gyles Calvert, London, 1651. The works of Jacob Behmen the teutonic theosopher, 4vols, Richardson, London, 1764-81. |
参考文献 | Martensen, Hans Lassen : Jacob Boehme: His Life and Teaching, or Studies in Theosophy, Hodder and Stoughton, London, 1885. Penny, A.J.: Studies in Jacob Boehme, Watkins, Lodon, 1912. Stoudt, John Joseph: Sunrise to Eternity, a study in Jacob Boehme's life and thought, Philadelphia University Press, Philadelphia, 1957. Brinton, Howard Haines: The Mystic will; based on a study of the philosophy of Jacob Boehme, Macmillan, New York, 1930. Weeks, Andrew: Boehme: An Intellectuial Biography of the Seventeenth-Century Philosopher and Mystic, State University Press of New York Press, Albany, NY, 1991. 南原実 『ヤコブ・ベーメ−開けゆく次元』牧神社、1976年。 |
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